この記事の要点
- 民泊収入は不動産・事業・雑のどれかに区分され、新法民泊は国税庁の見解で原則雑所得。帳簿の有無が分かれ目
- 家賃は非課税でも宿泊料は課税。インボイス登録した個人の2割特例は2026年分で終わり、2027・2028年分は3割特例
- 同じ売上でも、借りた物件か自社保有か、自社で管理するか外注するかで、利益と手残りが大きく変わる
- 人件費は消費税の計算で差し引けないため、自社管理型は課税事業者になると消費税が重くなりやすい
- 法人化の検討水準は利益800万円超が続く見込み。物件を増やすなら取得前に法人を作る
民泊の税金は、賃貸経営の常識が通用しません。「家賃に消費税はかからない」「部屋を貸しているから不動産所得」。賃貸では正しいこの2つが、民泊ではどちらも違います。知らないまま数年運営すると、数十万〜数百万円単位の差になります。
この記事では、都内で新法民泊・簡易宿所・旅館業の3形態を自ら運営する公認会計士・税理士として、民泊の税金の全体像を1本にまとめます。
最初に決まるのは「何所得か」
民泊収入が不動産所得・事業所得・雑所得のどれに当たるかで、使える控除と赤字の扱いが決まります。
| 項目 | 事業所得 | 不動産所得 | 雑所得 |
|---|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | ○ | ○(満額は事業的規模) | × |
| 赤字と給与などとの損益通算 | ○ | ○(一部制限あり) | × |
| 赤字の3年間繰越(青色) | ○ | ○ | × |
国税庁は、住宅宿泊事業法(民泊新法)の民泊を原則として雑所得としています。ただし、不動産賃貸業者が空室期間に民泊を行う場合は不動産所得に含めてよく、民泊で生計を立てるなど事業であることが明らかな場合は事業所得です。実務では次の順番で判定します。
- 旅館業の許可(簡易宿所・旅館)や特区民泊で通年営業し、規模が伴えば事業所得が基本線
- 新法民泊でも、ほかに賃貸物件を持つ不動産賃貸業者なら不動産所得に含める余地がある
- それ以外は帳簿次第。2022年の通達改正で、記帳と保存があれば事業所得と認められやすく、帳簿がなく収入300万円以下なら雑所得という運用が示された
開業届と青色申告承認申請書は同じ日に出すのが鉄則です。青色申請の期限(開業から2か月以内)を過ぎ、初年度の青色の特典を丸ごと逃す例は少なくありません。なお、私の施設はいずれも法人で保有しています。法人なら、個人の所得区分という論点そのものがなくなります。
消費税は宿泊料にかかる
消費税が非課税になる「住宅の貸付け」は、人が住むための貸付けです。宿泊サービスは期間の長短にかかわらず課税なので、アパートとして貸していた部屋を民泊にして売上が年1,000万円を超えれば、課税事業者になります。
- いつから:基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えた年から。前年1〜6月で1,000万円を超えると、翌年から前倒し
- いくら:超えた部分だけでなく売上全体の消費税から、経費にかかった消費税を引いた額。事業計画には3年目以降の消費税を入れておく
インボイス登録は、ゲスト層で決めます。個人の観光客が中心なら、登録しなくても困る場面はほとんどありません。出張客や法人契約が多いなら登録を検討します。未登録の宿の分を買い手が控除できる経過措置は、2026年10月から段階的に縮小しています。私の施設はインバウンドが大半ですが、それでも国内の出張客から月1〜2件、インボイスの発行依頼があります。
計算方式と、2割特例のあと
| 方式 | 納める額 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 本則課税 | 売上の消費税 − 経費の消費税 | 物件取得や大規模修繕で還付を狙う |
| 簡易課税 | 売上の消費税 × 50%(宿泊業) | 人件費が多い、手間を減らしたい |
| 2割特例・3割特例 | 売上の消費税 × 20%(2026年分まで)、30%(2027・2028年分) | インボイス登録で課税事業者になった個人 |
インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった個人の2割特例は、2026年分の申告で終わります。令和8年度税制改正で、同じ立場の個人に限り、2027年分と2028年分は売上の消費税の3割を納める「3割特例」が設けられました。事前の届出は不要ですが、法人は対象外で、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた年も使えません。宿泊業の簡易課税(50%)より有利なので、対象になる人は2028年分までは3割特例、その先は本則か簡易かを選ぶことになります。
簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、使う年の前年までに届け出た場合に限られます。後からは選べないので、設備投資の予定と合わせて前の年に決めます。
AirbnbやBooking.comなど海外OTAの手数料は、請求書に日本の消費税が記載されていなければリバースチャージの対象です。本則課税で「手数料×10/110」を控除に入れるのは誤りで、税務調査でよく指摘されます。
手残りは、物件の持ち方と運営の任せ方で変わる
同じ売上でも、物件を借りて運営するか自社で保有するか、運営を自社で回すか外注するかで、利益と手元に残るお金は大きく変わります。税金の前に、まずこの組み合わせを押さえておきます。
借りた物件か、自社保有か
| 借りた物件で運営 | 自社保有 | |
|---|---|---|
| 主な固定費 | 家賃 | 借入の利息、固定資産税、減価償却費 |
| 利益率 | 家賃が重く、低くなりやすい | 家賃がない分、高くなりやすい |
| 手残り | 利益とほぼ同じ | 元本の返済は経費にならず、利益より少なくなりやすい |
| 始めやすさ | 初期費用が小さく、撤退しやすい | 取得資金と借入が要るが、物件が資産として残る |
借りた物件の家賃は、契約上の用途が住宅なら消費税が非課税で、本則課税でも差し引けません。民泊や宿泊施設として使う前提で借りていれば、家賃は課税仕入れになります。課税事業者になる見込みがあるなら、契約書の用途を確認してください。
自社保有では、申告上は利益が出ていても、元本の返済で手元のお金は減ります。建物の減価償却が終わると、手残りは変わらないのに利益と税金だけが増えます。買う前に、返済と償却の年表で5年後・10年後の手残りを見ておくと安心です。
自社で管理するか、外注するか
清掃・ゲスト対応・予約管理を運営代行に任せれば、売上に連動する代行手数料がかかります。自社で回せば手数料はなくなる代わりに、人件費が増えます。
消費税の差が出るのはここです。運営代行や清掃の委託費は課税仕入れなので、本則課税では納める消費税から差し引けます。一方、自社スタッフの給与や社会保険料には消費税がかからないため、差し引けません。外注を給与に置き換えるほど、納める消費税は増えます。税込売上2,200万円(うち消費税200万円)のモデルで比べます。
| 外注型 | 自社管理型 | |
|---|---|---|
| 運営・清掃の費用 | 委託費 660万円(税込) | 給与 600万円 |
| その他の課税経費 | 440万円(税込) | 440万円(税込) |
| 本則課税で納める消費税 | 100万円 | 160万円 |
| 簡易課税で納める消費税 | 100万円 | 100万円 |
自社管理型は、本則課税だと外注型より60万円多く納めます。簡易課税なら経費の中身に関係なく売上の消費税の50%なので、人件費の多い運営ほど簡易課税が有利になりやすい構造です。外注か自社かを比べるときは、税込の金額ではなく、消費税を除いた金額と納める消費税まで含めて見ます。
経費と帳簿
- 家具・家電:10万円未満は一括で経費、20万円未満は3年で均等に償却。青色申告なら40万円未満(2026年3月以前の取得は30万円未満)まで、年300万円を上限に一括で経費にできる。この特例は2029年3月までの取得分が対象
- リフォーム:原状回復なら修繕費、価値を高めるなら資本的支出として減価償却。税務調査の定番の論点
- 開業前の支出:開業費として繰延資産にし、利益の出た年に償却できる
- 自宅型:面積と日数で家事按分し、根拠を残す
帳簿は、口座とカードを事業専用にする、売上はOTA手数料を引く前の総額で計上する、入金日ではなく宿泊日で計上する、OTAの明細などの電子データは電子のまま保存する、の4点で組みます。税務調査では、OTAの入金と申告売上の突合、現金決済の漏れ、私的利用との区分、消費税の区分が見られます。
青色申告特別控除は、2026年分までは最大65万円です。令和8年度税制改正で、2027年分から次のように変わります。
| 2027年分以後の要件 | 控除額 |
|---|---|
| 複式簿記で記帳し、e-Taxで申告 | 65万円 |
| 上記に加え、優良な電子帳簿の保存など(届出が必要) | 75万円 |
| 書面で申告 | 最大10万円(現在は55万円) |
紙で申告していると控除が大きく減るので、クラウド会計とe-Taxを前提にしておきます。
法人化はいつすべきか
検討の目安は、利益800万円超が2年続く見込みが立ったときです。法人は役員報酬や家族への給与で所得を分けられる一方、社会保険料の負担が加わります。比べるときは、個人のままの国民健康保険・国民年金まで含めた総負担で見ます。
物件を増やすなら、取得の前に法人を作ってから買います。個人で買ってから法人へ移すと、不動産取得税・登録免許税・譲渡所得の税金が改めてかかります。融資で広げていくなら、決算書を積み上げられる法人が前提になります。賃貸物件を含めた法人化の方式は、不動産の法人化で失敗する人の共通点で解説しています。
賃貸にはない税金と手続き
- 宿泊税:導入する自治体が増えており、民泊を対象にするか、税率や免税点は自治体ごとに異なる。ゲストから預かって納める税なので、預り金で処理して売上と分ける
- 個人事業税:旅館業は第一種事業で、事業主控除290万円を超える所得に5%。8月と11月に納付がある
- 住民税:副業の会社員は、住民税の徴収方法を「自分で納付」にしないと、勤務先に副業が知られることがある
まとめ
- 所得区分と青色申請の有無で、使える控除と赤字の扱いが決まる
- 宿泊料は課税。インボイス登録した個人の2割特例は2026年分で終わり、2027・2028年分は3割特例
- 物件の持ち方と運営の任せ方で手残りが変わり、人件費の多い運営ほど消費税の方式選びが効く
どの区分で申告するか、どの計算方式を選ぶか、いつ法人化するかは、物件の契約、許可の形態、運営体制で答えが変わります。ご自身の物件の数字で確かめたい方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. 会社員が副業で1室だけ民泊をしています。確定申告は必要ですか。
給与以外の所得(収入から経費を引いた額)が年20万円以下なら所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要です。20万円を超えれば確定申告が必要で、多くの場合は雑所得として申告します。
Q. 民泊の赤字を給与と相殺して税金を取り戻せますか。
雑所得に区分される場合はできません。損益通算ができるのは事業所得や不動産所得に当たる場合で、そのためには開業届と複式簿記の帳簿、相応の規模が前提になります。
Q. 運営代行に任せるか自社で管理するかで、消費税は変わりますか。
本則課税では変わります。運営代行や清掃の委託費は仕入税額控除の対象ですが、自社スタッフの給与は対象外です。同じ売上でも自社管理の方が納める消費税は多くなりやすく、人件費の割合が高い場合は、経費の中身に関係なく計算する簡易課税の方が有利になることがあります。
Q. 一般の税理士に頼んでも民泊の申告はできますか。
申告書の作成自体は可能です。ただ、所得区分の判断、OTA手数料の消費税、宿泊業の簡易課税、法人化の時期など民泊特有の論点が多く、宿泊業の実務を知っているかで結果が変わる分野です。
本記事は公開日時点の法令・公表資料に基づく一般的な情報提供です。個別の税務判断は物件の権利関係・許可形態・他の所得との関係により異なりますので、具体的な適用にあたっては専門家にご相談ください。